みなさんは本格ミステリーはお好きでしょうか。
例年、この種の映画はたくさん製作されてきたものの、今回ピックアップしていくのは、そんななかでも、とくに評価が高い、映画『容疑者xの献身』です。
今や、日本を代表するミステリー作家であるといえる、あの直木賞作家・東野圭吾さんの同名小説が原作でした。
さて、一般的に、本格ミステリーといえば、なぞ解き、犯人当て、トリック解明などといったことが主眼になって来るもの。
しかし、映画『容疑者xの献身』の場合は、もちろん、そういう要素もふんだんにあったものの、一般的なこの種の映画とは異なった余韻の残る作品だったのですね。
それでは、そんな映画『容疑者xの献身』のネタバレを見てまいりましょう。
目次
映画『容疑者xの献身』の概要
映画『容疑者xの献身』は、東野圭吾さんの記念すべき直木賞受賞作が原作です。
同名原作小説は、『ガリレオ』シリーズの1作で、直木賞のほか、本格ミステリ大賞を受賞し、さらにはエドガー賞にノミネートされたという、大変な評価を受けた作品でした。
以後、フジテレビ系の月9ドラマとして、福山雅治さん主演でドラマ化もされています。
さて、そんな映画『容疑者xの献身』は、2008年、西谷弘監督作品として、このドラマのキャストがメインキャストに名を連ねたまま制作されました。
主人公の湯川学役は福山雅治さん、内海薫役は柴咲コウさん、草薙俊平役は北村一輝さん、栗林宏美役は渡辺いっけいさん、弓削志郎役は品川祐さん、城ノ内桜子役は真矢みきさん、石神哲哉役は堤真一さんが、それぞれ演じています。
映画『容疑者xの献身』のあらすじ①
花岡靖子は、つつましやかに生活していました。
以前は、東京都内でホステスをしたりしてお金を稼いでいた、花岡靖子。
その理由とは、パッとしない男と結婚して、失敗してしまったからだったのです。
それから花岡靖子は、そんな旦那と離婚して、人生をあらたにやり直すためにがんばっていました。
花岡靖子は、弁当店を開業して、現在では、その店主として懸命に働いていたのです。
そんな花岡靖子が経営している弁当店の名前は美里といいました。
実は、花岡靖子の娘の名前が花岡美里だったために、花岡靖子は、そのまま弁当店の店名として採用したというわけです。
花岡靖子と花岡美里は、共に暮らしていました。
あくまでも目立たないような毎日ではあったものの、花岡靖子も花岡美里も、自分たちの生活に対しては、まったく不満などは抱いてなどいなかったのです。
ところが、そんな花岡靖子と花岡美里の毎日は、いきなり脅威にさらされてしまうハメに。
すべての元凶は、花岡靖子の離婚した元旦那である富樫慎二が、またしても花岡靖子と花岡美里の目の前にやって来たことでした。
富樫慎二は、あろうことか、花岡靖子に向かって、お金の無心をしてきたのです。
もちろん、花岡靖子は、こんなことに応じられるはずもなく、富樫慎二からの要求を突っぱねたのでした。
とにかく、花岡靖子は、富樫慎二とは金輪際、関係したくなかったのです。
これに対して、富樫慎二は、花岡靖子の態度が気に食わず、2人はそのまま言い争いに発展してしまいました。
その後、もののはずみによって、花岡靖子と花岡美里は、富樫慎二のことを殺してしまったのです。
想定外の異常な展開にパニックになってしまう、花岡靖子と花岡美里。
しかし、ここでまたしても予想もできないようなことが起こったのでした。
花岡靖子と花岡美里の隣に住んでいた石神哲哉という男性が異変に気づいたのです。
石神哲哉は、花岡家から異常を感じさせる気配を嗅ぎつけ、何が起こったのか確認するために、花岡家にやって来たのでした。
そして、そのまま、なんと、花岡靖子と花岡美里による富樫慎二殺しを知ってしまったのでした。
映画『容疑者xの献身』のあらすじ②
花岡靖子と花岡美里は、すっかり恐慌状態に陥ってしまいます。
何しろ、自分たちによる富樫慎二殺しを石神哲哉にすっかり知られてしまったのですから、無理もありません。
ふつうに考えれば、石神哲哉は、そのまま、花岡靖子と花岡美里が富樫慎二を殺してしまったことを警察へと通報するはずでした。
あるいは、石神哲哉は、花岡靖子と花岡美里に対して、富樫慎二を殺したという事実を握ることで揺さぶりをかけることだって可能な立場でした。
ところが、ここにきて、また、花岡靖子と花岡美里に信じられないような展開が訪れたのです。
まったく予期していなかったことに、石神哲哉は、花岡靖子と花岡美里に向かって、富樫慎二殺しから逃れるための工作を提案してきたのでした。
それは、花岡靖子と花岡美里が富樫慎二殺しの容疑者から外れるためのトリックだったのです。
あまりにも常識外のことで、おどろきを禁じ得ない、花岡靖子と花岡美里。
なお、この石神哲哉という男性は、職業は平凡な高校の先生だったものの、実は天才なのでした。
それも、天才的な数学者として、その方面においては彼の名前を知らない者はいなかったくらいのレベルの人物だったのです。
石神哲哉は、みずからの生きがいがありませんでしたが、実は、花岡靖子と花岡美里に好意を抱いていて、このことが心の支えになっていました。
そこで石神哲哉は、みずからの生きがいになってくれた花岡靖子と花岡美里をなんとか救おうと一念発起。
富樫慎二殺しの容疑者から外れるためのトリックを考案したのです。
さて、その後、富樫慎二の死体が発見され、殺人事件は表面化することに。
これによって、刑事の内海薫は、捜査を開始して、案の定、花岡靖子が富樫慎二殺害の容疑者の1人とされました。
もっとも、花岡靖子と花岡美里には、富樫慎二が殺されたとみられる時間帯に、映画鑑賞していたため、アリバイがあったのです。
殺人事件の捜査が難航してきたことによって、内海薫は、仕方なく、とある人物の協力を仰ぐことに決めたのでした。
その男こそ、これまでにも、内海薫ら警察が、殺人事件が発生するたびに、その解決のために協力してもらっていた、湯川学という人物だったのです。
映画『容疑者xの献身』のあらすじ③
この内海薫が世話になってきた湯川学は、帝都大学准教授。
専門は物理学で、ルックスはイケメンながらも、性格はそうとう変わった男でした。
もっとも、学者としては恐ろしく優秀で、石神哲哉が天才的な数学者だったように、湯川学もまた天才的な物理学者だったのです。
さて、いつものように、内海薫から頼まれて富樫慎二殺人事件の解決に協力することとなった、湯川学。
そんな湯川学は、石神哲哉と会うことになりました。
というのも、湯川学と石神哲哉は顔見知りであり、それも、かつて帝都大学に通っていたころには、同級生という関係だったのです。
なお、天才であることを自認していた湯川学でしたが、石神哲哉に対してはやはり天才であるとして一目置いており、そんな2人は自他ともに認めるライバルでもありました。
さて、湯川学は石神哲哉と久々に対面したものの、彼が自分の知っている彼とは何か違うと感づくのです。
石神哲哉は、それまで、専門である数学ひと筋であって、自分が周囲からどのように見られているかについては全く頓着しないような男でした。
ところが、そんな石神哲哉がなぜか、湯川学に対して、その容姿をうらやむようなことを言い出したのです。
これに遺和感を抱いていく、湯川学。
やがて湯川学は、その推理力によって、石神哲哉は花岡靖子に対して恋愛感情があると見抜くことになったのでした。
しかも、湯川学はそれだけにとどまらず、石神哲哉は花岡靖子を救おうと、富樫慎二殺人事件のアリバイ作りに加担したと見抜いたのです。
湯川学にとって、石神哲哉は懇意にしていた相手だったため、その心中は到底、おだやかではありません。
とはいえ、富樫慎二殺人事件の真犯人が花岡靖子で、石神哲哉は彼女を庇っているという疑いはもはや否定できませんでした。
そこで、湯川学はあくまでも、かつての石神哲哉との友情とは関係なく、富樫慎二殺人事件の真相究明に向けて、内海薫ら警察とともに動き出すことにしたのでした。
映画『容疑者xの献身』の結末
内海薫ら警察は、湯川学の協力のもと、富樫慎二殺人事件の解決のために、尽力していきます。
ところが、そんななか、おどろきを禁じ得ない出来事が起こりました。
なんと、石神哲哉が自分が富樫慎二を殺した犯人であると称して、警察に自首してきたのです。
内海薫ら警察が騒々しくなっていくなか、湯川学は、石神哲哉と面会することになりました。
湯川学は、とっくに石神哲哉がしたことが分かっていたうえ、彼ほどの天才数学者が好きな女性のために自分の人生をふいにすることが理解できなかったのです。
そして、湯川学はとうとう、石神哲哉に向かって、富樫慎二殺人事件の犯人はあくまでも花岡靖子であること、石神哲哉はそれを庇うためにウソを言っているという、みずからの考察を話し始めました。
とはいえ、当然のことながら、石神哲哉は湯川学の主張を認めようとはしなかったのです。
そんななか、またしても予期せぬ事態が起こりました。
こともあろうに、花岡靖子本人が富樫慎二殺人事件の犯人は自分であると名乗って、警察に自首してきたのです。
やがて、花岡靖子は、これまでの経緯について、全てのことを詳らかにしていきました。
実は、警察が富樫慎二と見ていた死体は、富樫慎二ではなく、ホームレスだったということ。
そして、石神哲哉が、花岡靖子と花岡美里のアリバイを作るために、2人を映画鑑賞に行かせたうえで、2人が映画館にいるあいだに、ホームレスを殺害して、富樫慎二であるかのように見せかけたとのことでした。
つまり、富樫慎二と見せかけたホームレス殺人事件の真相は、石神哲哉が、花岡靖子と花岡美里のためにやった、ある種の献身だったということだったのです。
その後、花岡靖子は、自分こそが本物の富樫慎二を殺害した張本人である旨、認めました。
このことによって、石神哲哉は富樫慎二殺人事件と見せかけたホームレス殺人事件の犯人として、警察に逮捕されることになったのです。
石神哲哉は、恋愛感情を抱いていた花岡靖子のことを結局、救えなかったことによって、精神的に混乱してしまい、とうとう、大きく叫び始めるのでした。
そんな石神哲哉のことを関係者は複雑な思いで見つめることとなるのです。
批評・感想
このような映画『容疑者xの献身』は、そうとう異色の作品であるといえるでしょう。
天才物理学者の湯川学が探偵役として活躍するという流れは、まさしく、本格ミステリーといえます。
しかしながら、あくまでも底流にあるのは、石神哲哉による花岡靖子への恋愛感情であり、また、その娘である花岡美里への同情なのでした。
もちろん、石神哲哉が花岡靖子に恋愛感情があろうと、花岡美里に同情していようと、本来、石神哲哉がやったホームレス殺害といい、花岡靖子による本物の富樫慎二の殺害といい、到底、許されることではありません。
あくまで、石神哲哉も、花岡靖子も、それなりの裁きを受けざるを得ないでしょう。
とはいえ、映画のタイトルになっているように、このような恐ろしい行動を「献身」に昇華させた原作者の東野圭吾さんの手腕、キャストの福山雅治さん、堤真一さんらの演技はそうとうなものであると思いました。
何が正義であって、何が悪であるのかすら、もはや分からなくなってしまうような世界観だからです。
個人的には、犯罪者になってしまった石神哲哉と花岡靖子の関係がその後、どのようになったのかも、大いに気になってしまいましたね。
Melody of Movieの採点
86点
■各レビューサイト参考
映画.com:3.8
Yahoo!映画:4.20
Filmarks:3.8
みんなのシネマレビュー:3.33
※みんなのシネマレビューは10段階→5段階評価に換算しています
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まとめ
映画『容疑者xの献身』は、まぎれもない王道の本格ミステリーです。
しかしながら、それでいて、一般的な本格ミステリーではなく、ヒューマンドラマや恋愛ものの要素も色濃い作品でした。
ここが、既存のこの種の映画とは決定的に異なっているといえるでしょう。
ふつうの本格ミステリーでは満足できないという方には、まさに、うってつけの作品なのではないかと思います。
もともと東野圭吾さんのファンだという方はもちろんのこと、そうではない方にも、ぜひ、積極的に鑑賞していただきたいと思いますね。