出典:fashionpress
本日は、現在公開中の作品「老後の資金がありません!」について書いていきます。
目次
『老後の資金がありません!』ってどんな作品?
あらすじ
主人公は後藤篤子(天海祐希)。主婦として2人の子供を育て上げ、自身もパートで家計を支えています。夫の章(松重豊)は家計には全く興味なし、妻に任せ切り。娘のまゆみ(新川優愛)はフリーター、大学4年生の息子・勇人(瀬戸利樹)は就職が決まったばかりという4人家族です。篤子は欲しいブランドバッグも我慢して、家計のためにお金をやりくりし、老後の資金をためてきたはずでした。義父の葬儀を皮切りに予想外のイベントが次々に怒り、後藤家の資産はどんどん減っていいきます。さらに売り言葉に買い言葉で浪費家の義母を引き取ることになり、ますます家計が苦しくなっていき…。篤子は無事に老後を迎えることができるのでしょうか?
キャスト
本作は小説が原作の映画です。原作は垣谷美雨さんの34万部超えのベストセラー「老後の資金がありません」(2011年/中公文庫)です。映画化にあたり、主人公の篤子は天海祐希さんが演じています。裕福ではない一般的な家庭の主婦という設定に天海さんの起用はミスマッチなのでは…?と思いましたが、さすが女優さん、違和感なく演じていました。本作のキーとなる篤子の義母役は草笛光子さん。役柄も超アクティブシニアでしたが、草笛さんも2021年時点で88歳とのこと!ヨガのポーズもバシッと決めていて、信じられない若々しさでした!周りのキャラも、ヨガ講師にクリス松村さん、葬儀社のベテラン社員に友近さん、娘の婚約者に加藤諒さん、篤子の父親は竜雷太さんなど濃いキャラクターだらけでした!
Melody of Movieの評価
80点
■各レビューサイト参考
映画.com:3.8
Yahoo!映画:4.03
Filmarks:3.7
老後は1人2000万円必要!?
老後2000万問題ってなに?本作の重要なテーマとして「老後2000万円問題」が出てきます。老後2000万円問題とは、金融庁の報告書内で年金を受け取ったとしても、老後の30年間生活していくのに約2000万円足りない、とまとめられたことがメディアで大きく報じられたものです。金融庁の報告の該当箇所はこちらです。“収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300万円、30年で約2,000 万円の取崩しが必要になる。”
参考:高齢社会における資産形成・管理 P16
でもコツコツ生きてきたからなんとかなる?
そうはいっても篤子はまだ50代。ワイドショーで「2000万円問題は1人2000万円必要という意味だ」と経済評論家に脅されて不安になる篤子ですが、持ち家もあるし、夫の章も定年になれば退職金がもらえるし。現時点では貯金700万円程度だけど、このまま贅沢せずにコツコツ貯めていけば老後までにはもう少し資金を貯めることができるよね、と思っていました。老後に入る前に夫婦2人分4000万円用意できている家庭の方が少ないのではないでしょうか。篤子のように50代の方は、子供を育て上げ、教育費も掛からなくなりこれからは出費が少なくなると見込んでいるのではないでしょうか。しかし現実には親の介護や、子供も完全に独立しきれず実家に暮らすなど、50代の働き盛り世代の出費はそう抑えられるものでもないことが映画で描かれています。
家族を襲う困難!
後藤家の貯金がどんどんなくなっていくことになる原因をみていきます。
親の葬式を豪華に実施
闘病中だった義父が亡くなり葬儀を執り行うことに。章の妹 志津子(若村麻由美)から喪主を押しつけられ、葬儀代を負担することに。最低限で済ませようとする篤子ですが「元老舗和菓子店」の店主の葬儀なのだから豪華な葬儀とするように姑に言われ、その費用は400万円近くに。冠婚葬祭はお金が掛かります。節約しようと思っていても、1つ1つのオプションを決めるときに「人生に一度きりなので」「最後の晴れ舞台なので」なんて言われてしまうとなかなか最低ランクのものを選びにくくなりますよね。映画でも葬儀の祭壇や、棺や、お花などをカタログから選ぶシーンがあり、ベテラン葬儀屋役の友近さんが「最低ランクのものをお選びになる方はあまりいませんね。見る方が見ればわかりますから。」とあるあるネタのような演技を見せてくれました。
子供がデキ婚&派手婚
さらに出費は続きます。フリーターの長女まゆみがいきなり結婚すると言い出しました。独立してくれるなら家計の負担は減りますが、なんとお相手は年収150万円のバンドマン・琢磨(加藤諒)。娘夫婦の生活が不安になるところですが、琢磨の実家は地元で有名な餃子チェーン。相手の親の希望もあり、芸能人御用達の超豪華な式場で結婚式を挙げると言い出します。その費用は両家で折半で300万円ずつ。結婚式で600万円って相当豪華ですよね。先日お葬式に300万円払ったばかりなのに次は結婚式、イベントは続く物ですね。親として晴れ舞台を祝ってあげたい気持ちもありますが、娘夫婦は2人ともフリーターなので身の丈にあった式とは思えません。家計の状況など知らないまゆみは無邪気に「一生に一度だから」と豪華な挙式を費用面で支援をして欲しいと言います。
夫婦揃って失業
悪いことは続くものです。義父の葬儀の後、パートをクビになってしまった篤子。しかし今度は夫の章の会社が潰れてしまうのです。夫婦揃って無職になってしまった後藤家。これから貯金を切り崩して生きていかなくてはいけません。これまで毎月姑・芳乃(草笛光子)に9万円を仕送りしてきましたが、もう払うことはできません。仕送りを免除してもらうために章の妹夫婦と話し合いを持ちますが、志津子はこれまで資金面で両親の面倒を見てきたと言い張り折り合いがつかない。耐えきれず篤子は、高級老人ホームに入っている芳乃を引き取ると口走ってしまいます。妹夫婦は経済的にゆとりがありそうに描かれており、高級な車に乗っているのにも関わらず、うまいことを言って芳乃の経済的支援をかわそうとします。コメディとして描かれていましたが、リアルだったら大変なトラブルに発展しそうです。夫の章もどこかとぼけていて、妹がこれまで両親を支えてくれたから、自分たちが支援してやる必要があると納得してしまっています。毎月9万払うくらいなら一緒に住むと言ってしまう篤子の気持ちもわかりますね。
お金よりも大事なもの
アクティブシニアとして人生を楽しむ
芳乃が引越しトラック2台と共に後藤家に引越してきます。芳乃は典型的な浪費家で、クレジットカードを使って買い物三昧。残高不足で引落しができなくなると章にお金を振り込むようにお願いする始末。家で飲むお茶も高級な茶葉しか受け入れない芳乃を見て、篤子は引き取ったことを後悔しながら同居を始めたのです。篤子の唯一の息抜きの場であるヨガ教室にも芳乃は乗り込んできます。80歳になっても難易度の高いヨガポーズをキメる芳乃。あまりの元気さに篤子も言葉を失います。お金が底をつきそうな篤子は両親を頼りに実家を訪ねます。しかし篤子の両親は実家のお店をサーフショップ&カフェに改装し、リフォーム代に全てのお金を注ぎ込んでしまっており、頼れそうにもありません。芳乃も、篤子の両親も、ただ長生きしているだけではなく、完全に人生を楽しんでいます。仕事を辞めて時間ができたのに、健康状態に問題があって自由に動き回れないとか、もしくは仕事以外の趣味がまったく無くてやることがないなんて状態になったらもったいないですよね。理想の老後に見えますが、子供世代に頼ることになるのはちょっと親として勝手な気もします。
家族との繋がり
芳乃との暮らしを通して、少しずつ篤子と芳乃は心を通わせていきます。特に2人の距離が近づいたのは、ヨガ友達の父親の年金受給確認偽装を請け負ったときです。篤子と芳乃はヨガ友達から、父親が出て行ってしまったが、年金受給のための本人確認が近々ある。ここで本人確認が出来ないと年金が貰えなくなり生活が破綻する、と相談されます。年金の一部を成功報酬としてもらうことを条件に、芳乃は父親のフリをすることになりました。はい、完全に犯罪です(笑)草笛光子さんが男装しておじいさんになるのですが、普段のお綺麗な姿とギャップがありすぎてぱっと見誰かわかりませんでした。またこのシーンには三谷幸喜さんが出てくるのですが、掛け合いがとても面白くて映画館でも笑い声がたくさん聞こえてきました。どんな展開になるのか、ぜひ劇場で見てみてくださいね。騒動を経て距離が縮まった芳乃と篤子。しかし芳乃が病に倒れてしまうのです。一命はとりとめたものの、死を身近に感じた芳乃は生前葬を開くと言い出します。生前葬とは、亡くなった後に葬儀をあげるのではなく、生きている間にこれまでお世話になった人を集めて葬儀を行うというものです。お別れ会というイメージでしょうか。篤子は義父の葬儀で300万円掛かったこともあり、芳乃の生前葬に反対します。「私は出ない!」と言い張る篤子。
しかし、そんな篤子の想像に反して、芳乃はお金を掛けず、これまでのご縁を活かした手作りのパーティを企画していました。篤子も結局生前葬に向かうことになります。芳乃のスピーチを物陰から聞くことになった篤子。芳乃は夫が他界した後、老人ホームでひとりで過ごすと大きな孤独を感じた、そして浪費に走りお金を使ってもその孤独は解消できなかったことを吐露します。そのときに篤子が自分を引き取ってくれて、家族みんなで食卓を囲めて、どれほど嬉しかったかと語ります。生きていくためにお金は必要ですが、お金をたくさん持っていても1人であれば幸せを感じられない人が多いのではないでしょうか。自宅で介護をするのは大変なので、ケアハウスや老人ホームは現代で無くてはならない場所だと思います。でもそれだけではやっぱり寂しくて、家族が定期的に通って顔を見せることが生きがいにつながるのかもしれません。
社会との繋がり
芳乃の生前葬にはこれまで知り合った人たちや家族が集まってくれて、大切な人たちとご飯を食べて歌ったり踊ったり。通常の葬儀は本人は参列できないので、こういった形の会のほうが感謝を伝えられて良いですよね。前述の義父の葬儀では、盛大に挙げたものの、義父の友人もみんな同年代のため、すでに亡くなっていたり、入院中だったりして葬儀に来れない方が多かったというエピソードがありました。せっかくなら自分からこれまでのご縁への感謝を伝えたいですよね。もう1つ映画の中では社会との新しい繋がり方としてシェアハウスが出てきます。章の勤務先のおじさんがシェアハウスに住んでいたことから、章と篤子もシェアハウスに遊びに行くことになります。そこにはキャバクラ勤務のシングルマザーが住んでいて、仕事で外出しなくてはならない時間も、シェアハウスに住んでいればまわりの大人が子供の面倒を見てくれると話していました。また住人の中には夫婦でシェアハウスに入居している方もしまいた。二人では間が持たないからここに住んでいると。こういった家族の形、社会との繋がり方もあるんだということを映画を通して示してくれているように思いました。シェアハウスは経済的なメリットがあり、また人と交流することが出来るので若者に人気なのは知っていましたが、もっと広い世代にメリットがあるのかもしれないと思いました。
まとめ
本日は映画「老後の資金がありません!」についてご紹介しました。タイトルからはシリアスな雰囲気を感じますし、見る前は社会的問題を扱う固い映画なのかなと思っていました。しかし豪華な俳優陣が全力でコメディを演じていて、扱う問題は大きいのですが抵抗なく見ることができました。
前半はかなり笑えるシーンが多く、映画館でも笑い声が上がっていました。しかし後半の芳乃の生前葬のシーンでは、芳乃から篤子への思いをスピーチするシーンが感動的で、涙が出てきました。平均寿命がどんどん伸びていて、60歳で引退したとしてもそこからの30年を創造しなくてはいけない時代です。生きていくためにもちろんお金は必要ですが、人生を楽しむためにはお金だけでは足りず、家族や社会との繋がり、そして健康が欠かせません。私はこのために生きていると思えるような健全な欲も必要です。お金だけでも大変なのに、と思うかもしれませんが、逆に言えば繋がりや健康があれば多少お金が足りなくても生き方を変えれば暮らしていけるのかもしれません。この映画を見てお金の稼ぎ方を学ぶことは出来ませんが、人生にとって何が大切なのかを考えるきっかけとなると思います。幅広い世代で楽しめると思うので、ぜひ家族で見に行ってください!