本作はいくつかのバージョンで発表されている。バージョンによって映画の主題が大きく異なってくるので注意が必要だ。イタリアで上映された『オリジナル版』は155分で主人公の人生に焦点が置かれており、青年期の恋愛や帰郷後の物語が丹念に描かれている。しかし興業成績が振るわなかったため、恋人とのラブシーンや後日談がカットして短縮された『劇場公開版(123分)』が国際的に公開され成功を収めた。
2002年には173分の『ディレクターズ・カット版』が公開された。DVD・ブルーレイでは『完全オリジナル版』となっている。本当の意味で完全版に一番近いフィルムは、現在フィレンツェ某所に存在する。このフィルムは、2006年にフィレンツェで開催した「フランス映画2006」で上映された。今回のレビューは『オリジナル版』でのレビューになるので、後日談などが気になった方は『完全オリジナル版』を購入してみてはどうだろう。
目次
『ニュー・シネマ・パラダイス』キャスト・スタッフ紹介
- 製作国 イタリア / フランス
- 配給 🇮🇹 ティタヌス / 🇯🇵 日本ヘラルド
- 監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
- 脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ
- 製作 フランコ・クリスタルディ
- 公開年 🇮🇹 1988年11月17日 🇫🇷 1989年5月19日(CIFF) 🇯🇵 1989年12月16日
- 上映時間 123分(国際版)
- 出演者
- サルヴァトーレ・ディ・ヴィータ / トト [少年期](サルヴァトーレ・カシオ)
- サルヴァトーレ・ディ・ヴィータ / トト [青年期](マルコ・レオナルディ)
- サルヴァトーレ・ディ・ヴィータ / トト [中年期](ジャック・ペラン)
- アルフレード(フィリップ・ノワレ)
- エレナ(アニェーゼ・ナーノ)
- マリア [中年期](アントネラ・アッティーリ)
- マリア [壮年期](プペラ・マッジオ)
- アデルフィオ神父(レオポルド・トリエステ)
- スパッカフィーコ支配人(エンツォ・カナヴェイル)
- イグナチオ(レオ・グロッタ)
- アンナおばさん(イサ・ダニエリ)
- バート・ハマースミス(ゲイリー・シニーズ)
- アーレン・ビターバック(グラハム・グリーン)
- 広場の住人(ニコラ・ディ・ピント)
- サルヴァトーレ・カシオ
イタリアの元子役俳優。イタリアのシチリア島で生まれ、本作で世界的に注目を集めた。現在は俳優を引退し、故郷のシチリア島でレストラン兼宿泊施設を経営している。この情報は、2013年に日本のテレビ番組「世界・ふしぎ発見!」の取材で明らかになった。第44回英国アカデミー賞助演男優賞を受賞している。
- マルコ・レオナルディ
イタリア人の両親のもと、オーストラリアで生まれる。4歳でイタリアに移住し、17歳で本作に出演して高い評価を受けた。その後、メキシコ映画に出演。アメリカでもいくつかの映画に出演している。1999年にはカナダ映画にも出演している。
- ジャック・ペラン
パリ出身の俳優。パリのフランス国立高等演劇学校で演技を学び、優等で卒業。1957年、本名のジャック・シモネ名義で映画デビューした後、1960年にイタリアの映画監督作品の「鞄を持った女」に出演し注目を浴びる。同監督の「家族日誌」にも出演し、世界的に知られる存在になった。1966年には2作品で、ヴェネツィア国際映画祭 男優賞を受賞。高い演技力と端正な顔立ちでアイドル的人気を博した。27歳で映画スタジオを立ち上げ、初プロデュース作品で1969年度アカデミー外国語映画賞を受賞。その後も積極的に映画製作を行い、政治的な作品の製作も手掛けた。その傍ら、アラン・ドロンと共演した作品数本に出演するも、哀愁漂う雰囲気と幼さの残る風貌のためか、青年から大人の男へ成長しきれないという感が拭えなかった。しかし本作に出演して改めて存在感を示した。近年はプロデューサーとしての活躍が多いが、映画やドラマにも出演しているほか、パリで多くの舞台にも立っている。
- フィリップ・ノワレ
フランス出身の俳優。パリ16区の名門、ジャンソン・ド・サイイ高等学校に通っていたが、学業に無関心なため追い出された。その後、セーヌ=エ=マルヌ県のカトリック系寄宿学校に入った。高等学校教育の修了を認証する国家試験に3度失敗し諦めた後、在学中から認められていた舞台の適性を活かし、パリの演劇学校で勉強を始めた。最終的に、レンヌの演劇学校を卒業。舞台俳優[コメディ俳優]として活動を始めた後に銀幕デビュー。それ以後、出演作品は100本を越え、フランス映画界を代表する俳優の一人となった。2006年11月23日、癌のため76歳でこの世を去った。
- アニェーゼ・ナーノ
イタリアの女優。ローマ生まれ。1987年にデビューし、1988年に本作で若き日のエレナを演じて知られるようになった。ナーノ自身も「エレナを演じたことで、将来のキャリアを築く上で重要な、とても貴重な経験だった」と語っている。
- アントネラ・アッティーリ
本作で、幼少期のトトの母親役を演じて銀幕デビューを果たした。監督のトルナトーレの作品には本作以降も数本出演している。「Prima del tramonto」では、ナストロ・ダルジェント賞の最優秀助演女優賞にノミネートされた。その後も様々な映画やドラマで活躍している。
- プペラ・マッジオ
両親と同じ演劇の道を歩み始める。父はナポリ演劇史で最も偉大なコメディアン。舞台デビューは2歳の時で、父親の劇団の舞台でボロ人形の役として出演した。小学校の低学年で学校を辞め、幼いながらも父の演出するショーに参加することになる。1940年代に入り、両親の死がきっかけで舞台から離れることを決意しローマに移住。当時、自宅に匿っていたユダヤ人の影響でイタリア各地を転々としながらも、芝居の演出などをしていた。その後、徐々に女優としての活動を再開させ、1950年第後半にはプリマドンナとしての地位を確立。1960年代に映画への出演も始め、以降もテレビや映画で活躍。1999年12月、ローマで亡くなった。89歳で死因は脳出血だった。
- レオポルド・トリエステ
戦後間もない1940年代、劇場にて戦争や暴力に関する三部作に出演。1950年代には、映画監督としてもいくつかの作品で活動。1960年代に入ると、キャラクター性のある役に専念し、イタリア式コメディで活躍。1970年代以降は喜劇だけではなく、1974年の映画「ゴッドファーザー PART II」や本作を含め、1980年代の大作数本にも参加している。2003年、85歳でローマにて心臓発作のために亡くなった。
- エンツォ・カナヴェイル
郵便局員だった頃にエドゥアルド・デ・フィリッポ(イタリアの劇作家・俳優・監督・脚本家)に見出され演劇の道へ。存命中の元同僚の証言によると、郵便局員ではなくナポリの軍病院で事務員をしていたという。シニカルなお笑いで勢いのある演技が特徴の個性派俳優。いくつものコメディ舞台に立ち成功を収める。1960年代から2009年まで数十本の映画に出演し、有名なシリーズ物にも出演し名声を博した。本作に出演した際、1989年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞。1991年には、映画「La casa del sorriso」でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀助演男優賞にノミネートされた。
Melody of Movieの評価
94点
■各レビューサイト参考
映画.com:4.1
Yahoo!映画:4.36
Filmarks:4.1
みんなのシネマレビュー:4.2
※みんなのシネマレビューは10段階→5段階評価に換算しています
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『ニュー・シネマ・パラダイス』あらすじ
歳を重ね、中年期を迎えた映画監督のサルヴァトーレ・ディ・ヴィータ(通称トト)が映画に魅せられた幼少時代の出来事や青年時代の恋愛を回想する物語。ある晩、夜更けに帰宅したサルヴァトーレ。同棲中の女性に故郷の母親から電話があったと告げられる。電話の内容は、少年時代から親しくしていた映画技師の「アルフレード」が亡くなったという訃報だった。サルヴァトーレはベッドの中で、アルフレードと共に過ごした日々に思いを馳せる。第二次世界大戦終結間もない頃、イタリアのシチリア島のとある村で母と妹と3人で暮らしていた。父はロシアに出征していたが、まだ帰ってきていない。
村の中心にある広場に教会があり、その教会内を利用した映画館『パラダイス座』が、村の唯一の娯楽施設になっていた。週末になると劇場で映写機が回り出す。映画に魅了されたトトは、隙あらば映写室に入り込んでいた。映写技師のアルフレードは、その度にトトを叱り付けながらも親近感を寄せていた。そんな事を繰り返しながら、トトは映写機の操作を見様見真似で覚え始める。
『ニュー・シネマ・パラダイス』見どころ
イタリアシチリア島にある小さな村の、のどかな景色。劇場とフィルムにまつわる様々なエピソードや、その中で展開される悲喜こもごもの人生模様。エンニオ・モリコーネの切なくも美しいメロディ。場所や人種が違えど、誰もが通る青春時代の淡い記憶を思い出させてくれるストーリー展開。時を超えたノスタルジーを味わえること間違いなしだ。
『ニュー・シネマ・パラダイス』主要登場人物紹介
- サルヴァトーレ・ディ・ヴィータ / サルヴァトーレ・カシオ[少年期]
マルコ・レオナルディ[青年期] ジャック・ペラン[中年期]
少年時代から映画に魅せられ、村で唯一の映画館に入り浸って映写技師のアルフレードと親しくなっていく。父親が第二次世界対戦でロシアに出征してから戻っておらず、母マリアによって妹と共に育てられていた。青年期には自分でも撮影を行うようになり、その経験が映画監督として成功するきっかけとなった。村を出てからは約30年戻っていない。
- アルフレード / フィリップ・ノワレ
昔気質な映写技師で、村の教会兼映画館『シネマ・パラダイス』に勤めている。隙あらば映写室に入り込むトトをつまみ出していたが、次第に親近感を寄せ、トトの頭の良さや才能に気付き始める。
- エレナ / アニェーゼ・ナーノ
銀行員の娘。自身で撮影するようになったトトが、駅から出てきたエレナを偶然撮影した事がきっかけで一目惚れされる。美人だった彼女は、学園のマドンナだった。トトから告白されるも、その気がないので受け入れない。そこから、想いを諦めきれないトトの猛烈なアタックが始まった。
- マリア[中年期] / アントネラ・アッティーリ
主人公トトの母親。ロシアに出征中の夫の帰りを待ちながら、トトと娘を育てている。トトがおつかいのお金を映画に使ってしまった時など、叱る際は容赦無く手をあげる。30年も帰ってこなかったトトのことを決して恨んではいない。
- アデルフィオ神父 / レオポルド・トリエステ
村の中心にある広場に面する教会の神父。神父を務める一方で、教会内で映画の上映も行っている。新作映画の封切りの際は、1人で事前にチェックし、宗教的によくないと思われるキスシーンや濡れ場のシーンはカットするようアルフレッドに命令する。と言っても決して堅物ではなく、映画のBGMに合わせて踊ったり笑顔を見せたりもする。
『ニュー・シネマ・パラダイス』ストーリー・感想
本作は、戦後間もないシチリアの小さな村にある映画館を軸に人間模様が描かれている。90年代、日本のミニシアターブームの立役者となった名作映画だ。20代、30代、40代、50代…と、節目節目で観たくなる作品だ。その年代によって様々な響きを与えてくれる。公開当時はあまりの大ヒットに『シネマスイッチ銀座』では観にくる人が絶えず、1年中本作のみを上映していたという逸話がある。さて、そんな「映画」というものくらいしか娯楽がなかったジャンカルド村の人々は、アメリカ映画の中で描かれる想像を超えた豊かな生活や、この保守的な村ではありえないロマンティックなラブストーリーを羨望の眼差しで観ている。そして新作の輸入映画が封切られる夜は映画館に集まってスクリーンに声援を送り、本来ならあるべきはずのラブシーンがカットされた箇所では揃ってブーイングを鳴らす。映画の持つ『力』を感じるシーンだ。
因みに、「ジャンカルド村」は架空の村で、実際は「パラッツォ・アドリアーノ」という「パレルモ」からローカルバスで南に約4時間の町が舞台になっている。本作の世界がそのまま存在しているかのような雰囲気らしい。その理由は、全体的にレンガ造りの建物が多いので色自体が少なく、町自体がセピア色だからだそうだ。加えて人も少なくまばらなので、静かでのんびりしており、それがまた哀情を感じられる要因になっているようだ。パラッツォ・アドリアーノの市庁舎1階にある観光インフォメーションの右側には『ニューシネマパラダイス博物館』があり、映画で使用された小道具やセットの一部、そして撮影風景の写真などが展示されているので、現地を訪れた方はこの博物館に立ち寄ってみてはどうだろう。感動間違いなし!私も死ぬまでに1度は行ってみたい。
私が本作を最後に観たのは約20年前で、今回この記事を書くにあたり久々に視聴してみた感想は、やはり20年前との感想とは少し違っていた。歳を重ねると更に深みが増す。主人公とは全く違う人生だが、幼少期に夢中になったものや、他人だが我が子のように可愛がってくれた人。親元を離れ上京したまま何年も連絡をせずに帰らなかった日々。観ているうちにトトの人生が自身の思い出のように錯覚してしまい、ラストでは全てのシーンがスクリーンの中で流れるフィルムと交錯して走馬灯のように流れ、自然と涙が溢れ出てきた。そして最後のトトの表情とモリコーネの音楽でとどめを刺され号泣…。「ニュー・シネマ・パラダイスの良さがわからない」という感想もちらほら見かけるが、あなたの心にはどう響くだろうか?まだ未視聴の方はぜひ観てほしい名作の1つだ。