【刀ステ感想】とうらぶ初心者が語る舞台『刀剣乱舞』1作目~虚伝 燃ゆる本能寺(初演)~の凄さ

舞台『刀剣乱舞』(通称刀ステ)は、大人気ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』を原作にした演劇作品。

キャラクターの再現度に加え、細かく伏線の張られた重厚なストーリーが特徴で、2.5次元作品の代表格と言われる超人気作です

20211月~3月に上演された舞台『刀剣乱舞』天伝 蒼空の兵大坂冬の陣を観劇し、見事刀ステ沼に片足を突っ込んだ筆者。

今回は記念すべき刀ステ1作目であり、2016年5月に公演された「虚伝 燃ゆる本能寺(初演)」をDMM動画にて改めて視聴しました。

この「虚伝」、以前も動画で見たことがありますのでだいたいのストーリーは把握しているのですが

「冬の陣」を観劇した後だからこそ分かるトリックや、刀剣男士らが背負う物語の深さを感じたままに語っていきます!

虚伝 燃ゆる本能寺(初演)アーカイブ配信1,450円〜

舞台『刀剣乱舞』とミュージカル『刀剣乱舞』の違い

まずは改めて舞台『刀剣乱舞』とミュージカル『刀剣乱舞』の違いについて説明しておきましょう。

どちらも原作は同じ『刀剣乱舞-ONLINE-』で、筆者が紹介する舞台『刀剣乱舞』は演劇を中心としたいわゆるストレートプレイ。

一方ミュージカル『刀剣乱舞』(通称刀ミュ)はミュージカルとライブの全二部構成で、観客はペンライト等を振りながら推しに声援をおくることができます。

三日月宗近などの人気キャラは刀ステと刀ミュどちらにも登場しており、それぞれ違った役者が演じているのも魅力です。

刀ミュは音楽活動も盛んで、Mステや紅白歌合戦などの音楽番組に出演した経験も。「実写の刀剣男士をTVで見た」という場合ほとんどが刀ミュの方かと思います。

一方刀ステのキャストは2019年に公開された実写版『映画刀剣乱舞』に多く出演。

二つの作品はそれぞれの形で2.5次元舞台の枠を超えた実写版『刀剣乱舞』を体現しているのです。

舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺のここが面白い!

以下は内容のネタバレを含みますのでご注意ください。

開始15分で判明した「時間軸のズレ」のトリック

まず筆者が震えたのは物語序盤、三日月宗近と山姥切国広の会話で、三日月の口から一期一振(いちごひとふり)らが現在大阪冬の陣へ出陣中だと明かされるシーン。

大阪冬の陣といえば、20211月~3月に舞台『刀剣乱舞』天伝 蒼空の兵大坂冬の陣として上演された戦い。

冬の陣公演を見たばかりだった筆者は「おお!5年越しに2つの演目が繋がっているのかぁ~」なんて思っていましたが

……何かがおかしい。

「天伝 大阪冬の陣」公演では一期一振らと一緒に山姥切も出陣しているのに、今回の「虚伝」の中では冬の陣に出陣せず本丸にいる。

同じく宗三左文字も「天伝」では出陣していたはずなのに今回は待機しています。

逆に「天伝」の大阪冬の陣にはいなかった刀剣男士が何人も、「虚伝」の中では大阪冬の陣で戦っているようです。

ということは「天伝」の世界と「虚伝」の世界は全く別物?違う時間軸ということなのでしょうか。

舞台『刀剣乱舞』の中では時間軸のズレがあるらしい、ということは「天伝」の中でも語られていましたし、そのような観劇レポを見たことがあります。

正直、現時点の筆者の知識では本当のところを解き明かすことは出来ませんでした。

ただ、今回の時間軸のズレ(?)は2021年の「天伝」を観た後だからこそ気づいた事実。公演当時に観劇していたら決して気づかなかったトリックです。やはり刀ステはどこから見ても面白い!

織田信長という魔性の男

今回のキーパーソンは何と言っても魔王こと織田信長。

舞台となるのはタイトルにもある本能寺の変であり、かつて織田信長の刀だった刀剣男士達が今回の主役です。

「織田信長とは何者か」が物語全体のテーマにもなっています。

しかし物語の中心にいながら織田信長の姿はほとんど現れません。そこが余計彼の存在を謎めいたものにしているのです。

「虚伝」では刀剣男士達が暮らす本丸に、信長が最も愛した刀だという不動行光が加わることで物語が動き出します。

信長を敬愛する不動は「本能寺の変で織田信長を守りたい」と言い出しました。

同じく信長の刀でありながら信長を恨むへし切長谷部は「守るに値せん男だ」と反発。

織田信長という存在によって、平和だった本丸へ一気に暗雲が立ち込めるのです。

長谷部と不動の関係はしだいに悪化し、ついに喧嘩が始まります。そこで何故か、これまた信長の刀だった宗三左文字が長谷部を殴るというトンデモ展開が勃発。

最終的にそんな彼らを仲直りさせるため、本丸全体を上げての紅白戦にまで発展。

長谷部の言った「あの男は、生きてるうちも俺たちを振り回し、死んだ後も俺たちを振り回す」はまさにその通りで。

姿を現さずに登場人物全員を振り回す織田信長、魔王というよりも魔性の男という感じがしました。

そんな織田信長に対し最も複雑な想いを持っているのが宗三左文字です。

彼は不動のように真っ直ぐ愛することも、長谷部のようにあからさまに嫌悪することもできません。

信長へどういった感情を持ったら良いのか悩み、しきりに「織田信長とは何者なのか」と自分にも他人にも問います。

一方で、好きでも嫌いでもないが「理解したい」と冷静に語る薬研藤四郎もいます。

かつての主の人格に影響を受ける場合が多い刀剣男士ですが、信長を主とする四振は性格もバラバラなのが興味深く、織田信長の謎を一層深めます。

そして刀剣男士達は想像以上に繊細で複雑な心を持ち、それぞれの過去と向き合っている存在だと気づかされるのです。

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刀剣がを宿す意味と苦しみ

織田信長を通して、刀剣男士達がいかに複雑な心を持っているのかが分かったところで、今回の「虚伝」で筆者が特に気に入ったシーンを紹介します。

それは山姥切国広が三日月宗近に「心というものは実に不便だ」と嘆くシーン。

「俺たち刀剣は物だ。それなのにどうして心がある?」という山姥切の問いに

「物であるが故ではないか」と三日月が答えました。

そこから三日月はその「物であるが故~」という言葉の真意を語るのですが、その答えが何とも文学的で、確かな説得力と彼らしい美しさがありました。

その内容についてはぜひ三日月の口から聞いてほしいので、あえてここでは挙げません。気になる方はぜひ動画配信等でご覧ください。

「どうして物に心が宿るのか」という疑問に、曖昧な言葉や無言で濁したりせず、三日月が明確な答えを示したことにも驚きました。

いわゆる「擬人化」作品は数あれど、擬人化した物達に心が宿る理由が語られるのは珍しいのではないでしょうか。

なぜなら本来そこに理由など存在しないから。

原作でも語られていないであろう刀剣男士が心を持つ理由にまで踏み込んだ舞台『刀剣乱舞』、恐るべし!

刀剣男士は正義の味方なのか?

「俺はあの人が好きなんだ。それがそんなにいけないことかよ!この気持ちがそんなにいけないことかよ!」

物語が終盤を迎えても不動行光はまだ織田信長を歴史から守ろうとします。

見る側は彼の真っ直ぐな心に胸打たれますし、何かを犠牲にしても大切な人を守りたいという彼の考えこそ至極真っ当に思われます。

むしろ、そんな不動の気持ちを蔑ろにする他の刀剣男士達の在り方に疑問が生まれてくるのです。

本能寺の変の中でも不動は、刀剣男士でありながら信長や蘭丸を守ろうと、いわば歴史改変を行おうとしました。

「歴史が何だって言うんだよ。それが、自分の大切な人よりも大事なのか?」

「俺たちはこんな理不尽なものと戦わなくちゃならないのか。そんなのあんまりだ!」

刀剣男士は何のために戦うのか?その行いは本当に正しいのか?と見る側に問いかける不動行光の姿は、「天伝」で登場した弥助という男に重なるものがありました。

そんな刀剣男士の根底に疑問を呈すキャラクターが、悪役ではなくあえてメインに登場するというのが、今回の「虚伝」の凄さです。

刀剣男士が歴史を守る理由

「織田信長はここで死んだ。その歴史を守らなければならない」

「言わばこれは、織田信長を死なせるための戦いか」

本能寺の変を前にした長谷部と三日月のセリフです。

やはりここでも筆者はこう思わずにいられませんでした。

「なぜ刀剣男士はそこまでして歴史を守るの?」

その答えは終盤、不動を説得する宗三左文字のセリフから明かされました。

「信長が信長であることも、この歴史があるからこそなんです」

「この時代を変えてしまうというならそれは、蘭丸や信長の生きた証さえも否むことになるんです」

つまり歴史を変えてしまうということは、織田信長という人間そのものを変えてしまうということ。つまり信長が不動の愛する主ではなくなってしまうということ。

そして信長が勝ち取ってきた輝かしい名誉も失ってしまうということ。

普通の人間ならばそこでも「名誉なんてどうだっていい。人格や歴史が変わったってかまわない。命さえ助かるなら!」なんて考えるでしょう。

けれど不動は違いました。

不動は信長への未練を残しながらも、ついに歴史に抗うのをやめます。

彼には宗三の言うことが理解できたし、恐らく本能として理解せざるを得なかったのでしょう。

それは彼が人間ではなく「刀剣」だから。

戦の時代に生まれ、主の勝利と名誉の為に生き抜いた「刀剣」だからこそ、宗三の想いを受け入れたのだと思います。

刀剣男士は姿形こそ人間と同じで心も持っていますが、根本的には人間と異なる存在なのだと気づかされます。

「人は歴史によってつくられる」という考え根底にあるからこそ、刀剣男士達は歴史を守り続けるのでしょう。

舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺(初演)を初心者が楽しむコツ

予備知識なしでも十分楽しめるのが舞台『刀剣乱舞』ですが、今回は刀剣男士たちの心の葛藤や交流を楽しむストーリー。「虚伝」をより楽しむための刀剣男士基礎知識を紹介します。

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刀剣男士の自己紹介を解説!打刀、太刀、短刀、脇差の違いとは?

刀剣男士達が戦いに出向く前「出陣の儀」としてそれぞれが自己紹介のようなセリフを口にします。

たとえば宗三左文字は「刀派左文字・打刀(うちがたな)・宗三左文字」

薬研藤四郎は「刀派粟田口・短刀・薬研藤四郎」です。

初めて聞いたときは刀派?打刀?など刀剣初心者の筆者には分からないことだらけだったにで、それぞれの意味について調べてみました。

【刀派】同じ刀工(刀を作る職人)や同じ流派の者によって作られた刀たちの総称。

【打刀(うちがたな)】刃の長さが60センチ以上の長い刀のこと。

【太刀(たち)】打刀と大差はないが、馬上からでも敵を倒せるように長く反りも深く作られた刀。

【脇差(わきざし)】刃の長さが60センチ以下の短い刀。武士の腰元に何本か差さっている中の短い方の刀というとイメージしやすいでしょうか。

【短刀】脇差よりも短く、刃の長さが約30センチ未満。時代劇で女性が懐からサッと出すあのサイズの刀です。

つまり自己紹介で刀剣男士達は刀としての出生(ブランド)と種類を説明していたわけです。

刀剣男士の「兄弟」って何?

同じ刀工によって生み出された刀剣男士が、主に兄弟としてくくられています。というと刀派とほぼ同じでは?と思ってしまいますが、その他にも元の持ち主が兄弟という理由で兄弟となっている刀も。

先に作られたものから順に長男、次男となっているかと思いきや、そうでもないようです。

刀身の長い順であるなど、明確な設定はない模様。

余談ですが、「兄弟」という設定は刀剣男士の人格形成において大変重要視されているようです。

たとえば今回の「虚伝」は、小夜左文字が兄である江雪左文字をかばい負傷します。

それに対し江雪が「こんなことになるなら、私が傷つけばよかった」と自分を責め

そんな彼に鯰尾藤四郎が「そんなことは」と反論しようとするも、鯰尾の兄である一期一振がそれを制しました。

同じ兄であるがゆえ、江雪左文字の弟を想う気持ちが分かるのでしょう。

かくいう一期一振も、「天伝大阪冬の陣」の中で豊臣秀頼に「お前は何者か」と問われた際「でしょうか」

と答えています。つまり兄であることが彼の一番のアイデンティティということ。

刀剣男士の兄弟の絆はかなり強固なもののようです。

【まとめ】2.5次元の常識破り!虚伝は刀ステという問題作の皮切りだった

舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺(初演)を改めて観劇し気づいたのは「天伝 大阪冬の陣」とリンクするところが多いこと。

登場キャラクターが重なっており、ストーリーの中にも「冬の陣」が登場するというのもありますが

刀剣男士の複雑な心を描き、なおかつ刀剣男士という存在に疑問を呈すようなストーリー展開になっているのも似ています。

さらに「虚伝」は、歴史を守るはずの刀剣男士が歴史を改変させようとする。物語の根底をひっくり返すような内容でした。

初演公開から5年が経った「冬の陣」公演でそれが描かれるのは分かりますが、今回の「虚伝」はまさに第1作目。

刀剣男士達の心が抱える複雑さも、超人気作の2.5次元化というにはあまりに重い。

舞台『刀剣乱舞』は2次元原作を深すぎるほど掘り下げた、2.5次元の枠を超えた大作であり、ある意味問題作なのでは?と思う筆者でした。

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