舞台『刀剣乱舞』(通称刀ステ)は、大人気ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』を原作にした演劇作品。
キャラクターの再現度に加え、細かく伏線の張られた重厚なストーリーが特徴で、2.5次元作品の代表格と言われる超人気作です。
2021年1月~3月に上演された舞台『刀剣乱舞』天伝 蒼空の兵 –大坂冬の陣を観劇し、見事“刀ステ沼”に片足を突っ込んだ筆者。
1作目「虚伝 燃ゆる本能寺(初演)」に続く今回は、3作目である2017年6月~7月に公演された舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜をDMM動画にて視聴しました。
筆者はもともと原作やキャラクターに詳しくない上に、今回のメインパーソンは“暁の独眼竜”と呼ばれる武将、伊達政宗についてはほとんど知識がありません。
名前はもちろん知っていますし日本史等で勉強したことがあるのですが、正直記憶が無く……
よって見る前は「物語についていけなかったらどうしよう…」という不安もありました。
しかしその不安は見事に払拭され、完全初見ならではの驚きや感動にあふれた観劇体験を語っていきます。
目次
舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜のここが面白い!
※以下は内容のネタバレを含みますのでご注意ください。
刀剣男士がすぐそばに?これぞ2.5次元!な演出
前作「虚伝」は全体的におごそかで重い雰囲気があったのですが、「義伝」は明るいシーンが増えました。
まずオープニングでは刀剣男士達がまるでアイドルグループのように全員で歌って踊ります。キャラクターたちが華やかに歌って踊る姿は原作を知らない初心者でも楽しめますし、「2.5次元」ならではの演出ですね。
舞台が広くなった分、キャラクターが大きく立ち回ることができるので、殺陣などの演出もいっそう華やかで見ていて楽しくなります。
演者が客席通路を通る「客席降り」もあり、運が良ければ刀剣男士をすぐそばで見ることもできます。
コミカルなシーンや日替わりでアドリブの入る部分も増えて、何度観劇しても楽しそう。
個人的に注目したのは伊達政宗を演じた俳優の富田翔さん。彼は他の舞台で見たときもアドリブが面白かったのですが、今回も期待通りでした!
内番姿が可愛い!刀剣男士の魅力満載
「内番」とは、原作ゲームにも存在する馬の世話や料理など日常生活においての活動当番のこと。
刀剣男士達はその際ジャージや甚平などのラフな「内番姿」を披露してくれます。
「義伝」では日常生活のパートも豊富なので、そんな可愛い刀剣男士達がたくさん見られます。
筆者のお気に入りは山姥切国広の割烹着姿!彼の真面目な言動とフリフリの白い割烹着が何ともミスマッチで可愛いです。
散りばめられた伏線、三日月宗近の謎言動
前作よりも明るくポップな印象もある舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜ですが、時折シリアスな雰囲気にも包まれます。
その一つは、三日月宗近の意味深な表情や言動。
本来三日月宗近はいつもニコニコしており、「じじい」「おじいちゃん」と親しまれるキャラクター。泣いたり怒ったりする姿はこれまで一度も見られませんでした。
そんな彼が最初に違和感を見せるのは、鶴丸国永との会話。
いたずら好きの鶴丸が、いつか三日月のことを驚かせてみたいと話すのに対し、三日月は言いました。
「俺を驚かせるのは……骨が折れるぞ」
何でもない会話なのに、そう言った一瞬だけ、三日月の表情からすっと笑顔が消えます。
まるでその言葉に何か他の意味があるように。
いつも朗らかに笑う人から急に笑顔が消える瞬間の、ぞっとする美しさがありました。
「三日月は何かを隠している。」観客の誰もがそんな予感を持たずにいられません。
そんな意味深な三日月宗近の様子に、山姥切国広はずいぶん前から気づいていたようです。
三日月の達観しすぎた物言いに対しついに「あんたは何者だ」と尋ねました。
「俺にはあんたの腹の底が見えない」と問い詰める山姥切に三日月は
「俺はただ、この本丸に強くあってほしいだけだ」それは「いずれ来るやもしれん大きな試練と立ち向かうため」と答えます。
どうも煮え切らない三日月の答えに山姥切は
「歴史修正主義者はなぜ歴史を改変しようとしている?」と、刀剣乱舞という作品の根本的なテーマにまで疑問を呈します。
結局三日月から明確な答えは得られず、ひょうひょうとしたいつもの顔に戻った彼を見て山姥切はその場を立ち去りました。
けれど舞台上一人残された三日月は、なおも山姥切に向かって語りかけます。
いずれ来るかもしれない大きな試練に立ち向かう山姥切らを「俺は見守り続けよう」と。
いつもの笑顔は消え、鬼気迫る三日月の姿で「義伝」の前半は幕を下ろしました。
これらの三日月の言動の真意が「義伝」の中では明かされませんが、今回分かったことは
・本丸にはいずれ大きな試練がやってくる
・その「大きな試練」が何かは三日月宗近だけが知っている
・けれどその試練に立ち向かうのは三日月ではなく、山姥切国広ら他の刀剣男士
・歴史修正主義者が歴史を変える明確な理由は分かっていない
これらが今後どう解き明かされていくのか?今後の作品を見ながら追及していきたいと思います。
一方で触れておきたいのは、今回の物語中刀剣男士達は、関ヶ原の戦いが何度も時間が巻き戻されるという現象に陥ったこと。
このタイムリープという現象も何かの伏線になっているような気がします。
舞台オリジナルの衝撃展開!「黒鶴」登場
舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜の物語は、原作『刀剣乱舞-ONLINE-』に登場する「九曜と竹雀のえにし」という回想ストーリーが原案となっています。
その一方で、ファンの度肝を抜いた完全オリジナルの展開が今回登場しました。それが「黒い鶴丸国永」。
「黒い鶴丸国永」とは一体何なのかというと…
物語後半、関ヶ原の戦いで「黒甲冑」というもの刀剣男士達に立ち塞がります。「黒甲冑」とは伊達政宗の「天下をとりたい」という思いが甲冑に宿った存在。歴史改変を試みようとする邪悪な敵です。
鶴丸国永はそんな黒甲冑にとりつかれてしまいます。
どこかへ消えてしまった鶴丸国永が次に登場した時、真っ白な姿が特徴の彼が、呪縛のせいで髪も衣装も真っ黒になっていました。心も黒甲冑に支配されている為仲間である刀剣男士へ刀を向けます。
舞台に限らず原作のある作品でのオリジナル展開はよくあることですが、ビジュアルまでオリジナルを登場させるのは珍しいことです。
原作もののオリジナル展開は賛否が分かれる所ですが、この鶴丸はファンにも「黒鶴」と呼ばれる等おおむね好評だったよう。後に“ねんどろいど”としてグッズ化もされています。
刀剣を通して描かれる“人間”の物語
舞台『刀剣乱舞』の主役はもちろん刀剣男士ですが、彼らを通して描かれる“人間”の物語でもあります。
「義伝」で描かれるのは伊達政宗という人間、そして彼と細川忠興との絆の物語です。
物語の最後で戦いを終えた刀剣男士達は、伊達政宗が息を引き取る場面へ送り込まれました。
そこにあったのは老いと病でやせ細り、今にも息絶えそうな政宗の姿。
関ヶ原での刀剣男士の活躍もあり、伊達政宗は歴史通りの人生をおくったのです。
政宗は「織田信長のように天下をとりたい」という野望を胸にしまいこみ、代わりに徳川家に仕え70歳まで生き抜きました。
戦場で死にたいと言っていた彼にとって、理想の人生ではなかったのかもしれない。
長生きし最後は床の上で往生など、武士にとっては恥ともいえる死に方かもしれません。
けれどそんな政宗の前に、かつての盟友細川忠興が現れます。
そして忠興は政宗に言いました。「よくぞ“誓い”を果たしてくれた」と。
その“誓い”が何なのか、そしてその後の展開はぜひご自分の目で観ていただきたいのですが……正直、涙なしには見られません。
最初は伊達政宗の名前くらいしか知らなかった筆者も泣いてしまいました。筆者の中では2.5次元舞台史上に残る名場面です。
そんな二人を前に、燭台切光忠が声を震わせ言った「僕たちの元の主たちは、カッコいいな」というセリフ。この言葉も本当に泣けます。
元の主に対しては複雑な感情を抱く刀剣男士が多いけれど、最後は「カッコいい」と心から誇れる。
そんな伊達と細川の刀達はまさに刀剣男士の理想の姿ではないでしょうか。
「虚伝」で元の主の存在に苦しんだ織田信長の刀達も、いつかそう思える日が来ると良いのですが……。
舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜を初心者が楽しむコツ
予備知識なしでも十分楽しめるのが舞台『刀剣乱舞』ですが、今回は主要人物である伊達政宗について、そして刀剣男士の豆知識を紹介。
初心者が「義伝」をより楽しむため押さえておきたいポイントです。
陰の主役【伊達政宗】ってどんな人?
伊達政宗は東北地方にある出羽国出身の戦国武将。眼帯姿で描かれることが多いのは幼い頃に病で右目の視力を失ったため。
実際に眼帯をつけていたかは定かではありません。
視力を失い醜い姿を気に病む政宗の右目を、世話係であり忠実な家臣の片倉小十郎がくり抜いたという逸話もあります。
この逸話は事実ではないとされていますが、今回の「義伝」では事実として描かれています。
そんな伊達政宗は17歳という若さで伊達氏の当主となり、後に仙台藩初代藩主にまで昇り詰めました。
織田信長が本能寺の変で敗れた時、政宗はまだ16歳。あと10年生まれるのが早ければ天下をとっていたと言われています。
天下人とはなれなかった伊達政宗ですが、処世術に長けた策士として有名。
徳川家に仕え、70歳で生涯を閉じました。
刀剣男士は刀剣の付喪神(つくもがみ)
「付喪神」とは長い年月を経た道具などの物に、神や霊などが宿ったもの。刀剣男士は刀剣の付喪神と言われています。この「付喪神」は遥か昔、室町時代の書記にも見られる存在です。
刀剣男士は単なる刀剣の擬人化ではなく、古くから日本にある思想に乗っ取った存在なのだと分かりますね。
そして「付喪神」が宿るのは刀剣に限りません。「義伝」では伊達政宗の甲冑に心が宿った「黒甲冑」が登場しました。この「黒甲冑」はいわば刀剣男士ならぬ「甲冑男士」?今後もそのような存在が現れる可能性が出てきました。
【まとめ】原作に囚われないストーリーで刀ステの可能性を広げた「義伝」
舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜は、初心者でも見やすい作品だと思います。
それはコメディ要素が多く明るい雰囲気であることや、タイムリープや感動的な人間ドラマなど、飽きのこないストーリー展開だからです。
前回視聴した舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺では、元の主織田信長との関係に苦しむ刀剣男士の姿がありました。
信長は実体のない存在として描かれ、その亡霊のようなものに囚われる刀たちが主役。
けれど今回の「義伝」では、元の主である伊達政宗の姿がしっかりと描かれています。
一人の人間として悩み、戦い、最後は死んでいく。
そんな元主の姿を目の当たりにし、刀剣男士達は人間そのものの魅力を見つけていきました。
また、本能寺の変で刀剣男士は織田信長を死なせるために戦いましたが、今回は元の主を生かすための戦いでした。
生かすための戦いではありますが、政宗の「天下をとりたい」という夢を阻止し、やはり見果てぬ夢のままに終わらせる戦いでした。歴史を守ることは、どう転がっても葛藤がつきものです。分かりやすいハッピーエンドにはならない、そんなところが刀ステの魅力ですね。
最後に触れたいのが、舞台『刀剣乱舞』の特徴である「オリジナル要素の強さ」です。
筆者のようなとうらぶ初心者にはあまり気になりませんが、原作ファンにとっては賛否両論あるようです。
筆者が思うに刀ステは『刀剣乱舞』をただ2.5次元化するのが目的ではなく、『刀剣乱舞』というコンテンツを通して何か壮大なテーマを描いているのではないでしょうか。
例えば「心の葛藤」や「人間の素晴らしさ」など、全ての人の心に刺さるようなテーマが一貫してあるからこそ、初心者でも大いに楽しめるのかもしれません。
原作に囚われないストーリー展開だからこそ、誰もその結末を知らないというのもシリーズ物の大きな魅力でしょうか。
舞台『刀剣乱舞』の今後の展開にますます目が離せなくなった筆者でした。