【ネタバレありレビュー】ただのオシャレ映画じゃない!?「アメリ」のファッションや舞台についても解説

 オシャレで可愛らしい雰囲気が特徴的なラブコメディ「アメリ」(01)。“好きなフランス映画は?”と聞かれたら本作だと答える人も多いのではないでしょうか。公開から20年が経った現在でも、多くの人を惹きつける名作「アメリ」のあらすじや解説、オリジナルレビューを紹介します。

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 パリに暮らすアメリは、神経質な母と冷淡な父に育てられた風変わりな23歳。小さい頃に父親から心臓病だと間違われたため学校には通わず、いつも一人だった彼女は空想にふける癖がありました。母を事故で亡くした後に自立して、今はモンマルトルのカフェ「ドゥ・ムーラン」で働いています。恋人もおらず、時々父の元を訪ねるだけの変わらない日々…。そんなある日、家の片隅から40年前の少年が大切に隠した宝箱が発見されるのでした。

 持ち主の元に返してやろうと思ったアメリは大奮闘。彼が喜んだら自分の世界から出ようと決意します。そうしてアパートの管理人や食料品店の店主など、街の人に聞き込みをしていくと、それがブルドトーという名の人物だと分かりました。その帰り道、駅のホームを歩いていたところ証明写真機の下を漁る青年・ニノを見かけます。

 その後アメリは電話帳でブルドトーをひたすら当たってみますが、なかなか上手くいきません。すると、同じアパートの老人・レイモンが彼女を家に招きます。先天性の病気で骨がガラスのように脆いレイモンは部屋中の家具を布で覆い、絵を描いて暮らしていました。彼がアメリに見せたのは、ルノワールの「舟遊びの昼食」。その中に一人うつむき気味で写る“水を飲む娘”だけ描ききれないのだと明かします。

 その後、ブルトドーに箱を返すことに成功した彼女は人の幸せを手伝うことに喜びを感じるように。しかし、ふとした瞬間に自分自身には何もないことにも気づくのでした。

 ある日、駅の写真機で再びニノに出会います。アメリが一目惚れしてニノを追いかけると、彼が落として行ったカバンの中には証明写真を集めたスクラップブックが。さらに、それをレイモンに見せると、同じ人物が何度も写っていることに気づきました。

 ニノにカバンを届けたいアメリですが、なかなか勇気が出ません。そこで彼女は、彼のバイト先から居場所を聞き出すと、メモを残してモンマルトルの公園に来させることに。しかし、ここでも遠巻きに自分の存在を示しただけ…。周りはアメリのイタズラで少しずつ幸せになっていくのに、ニノと出会う作戦はなかなか上手くいかず落ち込んでしまいます。

 そこで届いたのが、レイモンからのビデオメッセージ。「お前の心はガラスじゃない、失敗しても大丈夫だ」という言葉に励まされ、すれ違ったニノを追いかけようと玄関を開けます。するとそこにはニノの姿が。二人は初めて出会い、想いを確かめることができたのでした。

キャスト・スタッフについて

 監督を務めたのは、ジャン=ピエール・ジュネ。世界的にヒットした本作で第27回セザール賞の作品賞と監督賞を受賞するほか、第74回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされました。他にも「エイリアン4」(97)や「ロング・エンゲージメント」(04)などの監督作があります。

 おかっぱ頭が特徴的なアメリを演じたオドレイ・トトゥは、本作で一躍有名になったフランスの女優。19歳の時、国内のテレビ映画「Coeur de cible」で女優デビューを果たすと、「エステサロン/ヴィーナス・ビューティ」(99)が国内で大ヒットしセザール賞の有望若手女優賞や、フランス映画で活躍した有望な新人女優へ贈られるシュザンヌ・ビアンケッティ賞を受賞。「アメリ」以降も、「ダ・ヴィンチ・コード」(06)や「ココ・アヴァン・シャネル」(09)などの代表作が並びます。

  アメリと同じく夢想家の青年ニノには、マチュー・カソヴィッツがふんしました。彼は映画監督の父親を持ち、20代半ばには自ら長編映画を撮り始めていたそうです。パリ郊外の街を舞台に人種差別を扱った監督作「憎しみ」(95)は、カンヌ国際映画祭やセザール賞で受賞するほどの大ヒット。近々ミュージカル化もされるのだそうです。

実在するカフェ・デ・ドゥ・ムーラン

 パリ・モンマルトルが舞台の本作の中でも度々登場するのが、アメリが働くカフェ「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」です。なんとこのお店、セットではなくて実際にあるのだそう。映画が公開されるとたちまち有名な観光スポットとなり、連日多くの客で賑わっているようです。店内には映画のポスターや関連グッズが並んでおり、雰囲気はまさにアメリの世界そのもの。劇中でアメリが食べているクレーム・ブリュレは店の人気メニューなのだとか。デザートやコーヒー以外にも、サラダやお肉料理などバリエーション豊富なメニューが揃っているそうですよ。

 ちなみに近くには、モンマルトルの象徴となるサクレクール寺院も。アメリがニノを呼び出すシーンで登場していました。他にも、コリニョンが働く食料品店「オ・マルシェ・ドゥ・ラ・ビュット」や、ニノと出会う証明写真機のあるパリ東駅など、パリに行った際にはチェックしたいロケ地が盛りだくさん。ぜひチェックしてみてくださいね。

ルノワールが描いた絵

 レイモンが模写しているのは、印象派画家・ルノワールによる「舟遊びをする人々の昼食」という作品です。1882年の第7回印象派展に出品されると、3人の批評家から最も優れた作品だと評価されたという有名作なのだそう。舞台はセーヌ川沿いのシャトゥーにあるフルネーズというレストランのテラスで、舟遊びに来た友人たちがテーブルを囲む様子を描いています。中には特定されている人物もいるそうで、例えば左下に写るお針子の女性は、後にルノワールと結婚するアリーヌ・シャリゴという人物。右下の最前列にいるのは、画家のギュスターヴ・カイユボット。そして劇中でアメリと重ねられる“水を飲む娘”はエレーヌ・アンドレという女優でした。

 他の皆が楽しそうに過ごしているところ一人だけ絵の外を見つめているような彼女の姿は、思いにふけているようにも見えますよね。彼女を、幼い頃から空想の世界に浸り、その場にいない誰かに想いを馳せるアメリに見立てて、レイモンと恋の話をする場面は印象的でした。

Melody of Movieの評価

83点

この映画は主人公はじめ登場する人物がとても個性的で面白いです。主人公のアメリは悩みながらも、自分を愛すること、そして人を愛することを知っていくストーリーです。ファッションも可愛いし、街並みも綺麗でそういった面でも楽しめます。人を選ぶ映画と言われていたりもしますが、是非一度観てほしいです!私はとても面白かったです^^

■各レビューサイト参考

映画.com:3.8

Yahoo!映画:3.75

Filmarks:3.7

みんなのシネマレビュー:3.38

※みんなのシネマレビューは10段階→5段階評価に換算しています

アメリに学ぶフレンチファッション

 レトロでフレンチシックなファッションも見どころの一つ。可愛らしい雰囲気がたまりません。全体的に原色でカラフルなイメージがありますが、よく見てみると黒できちっとしめているコーディネートが多いんです。例えば、サンマルタン運河で水切りをするシーンでは、真っ赤なワンピースに黒い靴下とマニッシュな黒い靴を合わせています。アメリの黒髪おかっぱとマッチして赤いワンピースだけがパッと目立つようなコーディネートが、背景に広がる木々の緑によく映えているんですよね。また、駅で出会ったニノを追いかけるシーンでは赤いワンピースに黒いトレンチコートを。この時のワンピースはレース素材で、よりフェミニンな雰囲気になっていますが、黒いコートの裾から覗かせているのが可愛いらしくて印象的です。

 緑の半袖ニットを着ている日には黒のタイトスカートを穿いていました。胸元が開いたニットはデコルテをきれいに見せていて体のラインがはっきりするような着こなしになっていますが、セクシーにはなりすぎず、むしろ可愛らしい…。パリの街に溶け込むようなヒロインの装いには憧れが止まりません。

舞台番「アメリ」がある?

 実はこの作品、舞台化もされています。‘17年には、ミュージカル「ハミルトン」(15)でトニー賞にノミネートされた経験を持つフィリッパ・スーを主演に迎えブロードウェイで上演されました。舞台ではセットを転換することなくステージ左右の階段を使って表現したのだとか。

日本では、‘18年に渡辺麻友さん主演で上演されています。渡辺さんは初めてのミュージカルでした。ニノ役は数々の舞台で活躍する太田基裕さん。こちらも役者自身が舞台の転換をしたり小道具を出し入れしたりして何役も演じたのだそう。演出は宝塚歌劇団出身の児玉明子さんが務めました。映画の独特な世界観をどのように舞台化したのか気になりますよね。

レビューと解説

 まるで絵本の中にいるかのような可愛くてポップな世界観が中毒的で、パリの庶民生活が分かることも斬新でした。空想好きなアメリの視点から見た日常はファンタジーのようでもあり、時々クスッと笑えるコメディチックな部分もあり、そのユニークさは本作ならではですよね。彼女の孤独を強調しすぎることなく、個性豊かな街の人たちに囲まれて暮らす姿は時に愉快に描かれていた感じもします。そんな日常を過ごす中で、ふと気づいたら孤独を感じるという流れにもまた共感できて、物語が進むにつれ彼女のことを応援したくなっていました。

劇中に登場する人たちは、みんな“変な人たち”なのですよね。主人公アメリはもちろん、捨てられた証明写真を集めるニノや、元恋人に張り付いて録音までするオジサン、娘が妊娠したと言っても気にならない父親に病気で外に出られないレイモン…。などなど、どこか変わっていて自分の欲に忠実すぎる人々が、アメリと関わっていく中でチャーミングに見えてきます。アメリはそんな彼らに気づき、少しのイタズラをすることで幸せにしていきますが、最後には周りの力も借りながら自分で幸せを掴みました。私たちの周りも本当はこんな感じで変人の集まり…皆んな“普通”に生きているように見えるだけなのではないでしょうか。アメリのような純粋な視点で世界を見ることができたら面白いのだろうな、なんて思いました。それぞれの好きなことと嫌いなことを並べていく人物紹介の仕方もユーモアがありますよね。また、大きな展開を巻き起こすことなく、あくまで日常ベースに描いていることに映画をフィクションで終わらせない説得力を感じます。

冒頭では幼い頃のアメリが紹介されますが、そこに登場する金魚のクジラはアメリ自身のメタファーとも捉えられます。ガラスの鉢から飛び出した金魚を、ナレーションは“金魚の自殺未遂”と表現していました。一方、外の世界に出たら危険だと思って自分の殻に閉じこもるアメリは、両親によって家の中で育てられた子供。この時すでに、自分の世界から外に出ることは自殺未遂も同然だというテーマを暗示していたのではないでしょうか。そのため、ラストまでの所々のシーンでアメリはガラス越しにニノを見つめています。ニノがカフェに来た時も、家まで来てくれた時も…。そして、なかなかガラスの向こうに踏み出せなかった彼女を後押ししたのが、“ガラス男”と呼ばれているレイモンだったことも面白いですよね。細かい視線の描かれ方にも注目してみると良いかもしれません。

  このように、複雑だけれど純粋な彼女の心情がじわじわと変化していく様に本作の見どころが詰め込まれているように感じました。日常の些細な出来事を大事件のように思う可愛らしさや、弱い立場の人を助けてあげたい優しさ、かと言ってレイモンにアドバイスを貰ったのに“自分の世界に浸っててもいいでしょ”と素直になれない弱さも併せ持つなど、一筋縄ではいかないアメリの性格がよく描かれていたと思います。夢想家であることが強調されがちですが、他にもさまざまな一面があることが分かりました。ちょっぴり不器用でお人好しな彼女が葛藤しながら勇気を出そうとしていた姿は思わず応援したくなるほどで、アメリというキャラクターに気づいたら愛着が湧いていたようです。彼女の悩みに共感した人も多いのではないでしょうか。そうやってアメリに親近感が持てることが、この作品が長年愛されている理由だと言えるでしょう。

まとめ

 可愛い作風とは裏腹に、扱うテーマが意外としっかりしているところにギャップがある本作。もちろん雰囲気だけを楽しむこともできますが、アメリの成長物語として見てみると何か新しい発見があるかもしれません。私のお気に入りは「人生に失敗しても大丈夫」というレイモンのセリフ。何度見ても心に刺さります。何かに失敗して落ち込んだ時や、新しいことを始めるのが不安な時、オシャレな雰囲気に浸りたい時やパリの気分を味わいたい時など、どんなシーンにもピッタリの映画です。ただのオシャレ映画としてだけではない本作の魅力を、何度も味わってみてはいかがでしょうか。

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