映画「盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~」公式サイト » PRODUCTION NOTE


シュリラーム・ラガヴァン監督
インタビュー

本作の着想について
この作品には多くのツイストを入れた。そもそも、原案となったフランスの短編映画『L’Accordeur (The Piano Tuner)』を観たときから、私はどこかひねくれた感想を持っていたんだ。盲目のピアニストが背後から銃を突き付けられるシーンがあって、本来緊迫するべきシーンかと思うのだけど、私はなんだかそのシーンが妙に可笑しく感じてしまった。

こうした私の感覚のずれは、ストーリー展開にも活かされていると思う。10分に1回は予想もしなかった展開が起こるようなストーリーになっているんだ。例えば「ラブストーリーになるのか?」と思う場所で、観客は死体を見るのさ(笑)。

脚本の共同執筆者や作曲家は、ラストをはっきりすべきだと主張していた。しかし、私は「定義してしまうと、減らすことができない」と思った。なので、映画を公開した後に、映画の内容やエンディングの解釈について観客が議論しているのを知って、とても嬉しく思っているんだ。

サスペンスシーンについて
スリラー・サスペンスだけど、ガンアクションのシーンは、ほとんど撮っていない。そういったシーンは必要ないと初めから分かってたからね。

アーカーシュがシミーの家でピアノを弾くシーンは、「なぜ昼の設定にしたのか?」と聞かれたことがある。妻の誕生日のためにサプライズでプライベートコンサートを開くなら、普通は夕方か夜だろうという意見だった。しかし、それは違うんだ。「白昼堂々の犯行」である必要があった。隣の部屋で、隣の建物で、こうしたサスペンスが起きているかもしれないと、観客に日常と隣あわせの出来事に感じてもらいたかった。

この時のピアノのメロディは、ロマンチックなわけでもなく、背景音楽に近いような感じで演奏される。つまり、シーンの雰囲気とは一切関係ないんだ。作曲家から、物語の他の箇所にリンクするような音楽の提案もあったんだけど、そうではないものを作るように指示したよ。

キャスティングについて
キャスティングは難航した。名前は言えないけれど、大物から新人までたくさんの俳優に会った。けれどもストーリーを伝えると、皆「腎臓なしで人は生きられるの?」といった質問でつまづいてしまった。

前作『復讐の町』の製作前、主演を務めたヴァルン・ダワンにもストーリーを伝えた。「いま、とても面白い映画を企画していてね」と紹介したんだ。『盲目のメロディ』はとてもユーモアがある作品だと考えていたから。けれども『復讐の町』のストーリーを聞いて、ヴァルンはその話に夢中になり、それ以上は進められなくなってしまった。その後、ヴァルンは大作への出演が続いたので、彼の出演を諦めた。1年や2年も待つのは嫌だったからね。そこで、新たに俳優探しを始めた。まずタブーに会い、彼女の配役を決めた。彼女はいつも「相手役は誰なの?」と繰り返し尋ねてきた。そんな時、アーユシュマーンが電話をくれたんだ。そして次の日に会うことになって、その翌日には彼の出演が決定したんだ。

盲目を装うピアニストー難役への挑戦

2018年10月にインドで劇場公開された本作は高評価を受け、特にアーユシュマーン・クラーナーとタブーの演技は批評家から絶賛された。インド国内の映画賞スター・スクリーン・アワードでは、最優秀監督賞・最優秀脚本賞を含む4つの賞を勝ち取った。さらにヒンディー映画界最高の賞といわれているフィルムフェア・アワードでは、批評家が選ぶ最優秀作品賞、アーユシュマーンへの最優秀俳優賞を含む5つの賞が授与された。

盲目を装うピアニストという難役を演じるにあたって、アーユシュマーンは、視界が約80%遮られる特別なメガネを用いてトレーニングし、彼のボディランゲージはどんどん進化していった。80%をさらに90%にまであげて、表現を練り上げたという。監督は彼が先入観を持たない様に、盲目の人物が主人公の映画を観ないよう指示し、盲学校に彼を派遣した。

「動きに関しては、みんな動作が違うので、どのようにステッキを持つか、階段を登るかなど、個々人の動作のニュアンスを盲学校で研究した。目隠しを付けてオムレツを作ったり、道を歩いたりしたんだ」とアーユシュマーンは苦労を振り返っている。

さらに彼には、ピアノ演奏というハードルもあった。MTVのビデオジョッキーを経て俳優になったアーユシュマーンは、ギターを奏でて歌うミュージシャンでもあったが、ピアノは初心者だった。それでも自分自身によるピアノ演奏にこだわり、1日4~6時間ピアノを学び、代役を使わなかった。彼は「目隠しをしているので鍵盤を見ることもできなかった。普通に弾くだけでも大変なのに、もうひとつ困難を抱えていたということさ。キャリアの中で最もやりがいのある役だったよ」と、チャレンジングな役に関して語っている。

名女優を振り向かせた脚本

デビューして以来、インド国内の様々な言語の映画からハリウッド作品まで、多様なジャンルの作品に出演してきたインドを代表する名女優タブーは、本作では憎み切れない悪女役を見事に演じて、インド国内で数々の演技賞に輝いた。

豊富なキャリアを誇る彼女は、脚本のチェックも厳しく、簡単には出演の了承を得られない俳優だ。しかし、ラガヴァン監督と映画を作ることをとても楽しみにしていたという。「監督と脚本が出演のキーポイントだった。ストーリーのひねりやダークな描写がたくさんありながら、登場人物の白黒つけがたい複雑な感情を扱っている点に惹かれたの。素晴らしいアーティストも、どこか素晴らしくないものを持っている。そして何より監督の人柄から発されるユーモアに溢れてるの」

劇中では時に、官能的な雰囲気も漂わせているが「自分の性的な魅力について、特に考えたことはないの。それは、観客がどう理解するかにもよると思う」と語っている。

ラガヴァン監督は「タブーにしかできない演技がたくさんあった。シミーの家での殺人シーンは、事前にアシスタントたちにカメラテストをさせたけど、彼女はそれを確認した後、リハーサルなしでいきなり本番から撮影したんだ。本当に優れた女優だと思うよ」と、その演技を賞賛している。

トリュフォーへのオマージュ

ラガヴァン監督にとって、本作は5作目の長編作品だ。日本でも公開された3作目の『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』での劇中の1曲「Raabata(つながり)」では、曲の長さ約3分の全てがワンショットで撮られている。映画本編よりも評価されたこの楽曲シーンは、本作の殺人シーンの撮影アイデアとして活用されている。

インド映画というと、豪華な歌やダンスシーンが一般的と思われがちだが、近年は減少傾向にあり、トップスターの大作でない限り、フルコーラスの豪華なダンスシーンを目にすることは少なくなっている。一方で、ドラマに主軸を置いた作品が興行的にも成功を収め、近年では、2015年に日本でも公開され話題を集めた『女神は二度微笑む』など、優れたスリラー作品も生まれている。

ラガヴァン監督は、長編監督としてデビューして以来、スリラーを主軸にした作品を撮り続けてきた。その原動力を「子どもの頃からスリラー小説を読むのが好きだったし、ヒッチコックは、全てのストーリーを自分で書いたのだと信じている。ボリウッド映画でもスリリングなスリラーが好きだった」と語っている。

本作のタイトルは当初、フランソワ・トリュフォーの同名作品へのリスペクトを込めて“Shoot The Piano Player”だったという。カチンコにもそのタイトルが使われていたが、英題だった為、公開前にタイトル変更となった。物語の終盤、ソフィーが町で偶然見つけたアーカーシュのライブポスターに書かれた彼のバンド名は“アズナヴール・アンサンブル”。トリュフォー作品に出演したシャルル・アズナヴールへのオマージュだ。「誰も気づかないと思うけれど、アズナヴールの名前を使わせてもらったんだ」とラガヴァン監督は明かしている。